水泳資格が必須のオランダで、スイミング教室は教育的にパーフェクトかもしれない。2019/Jul/07

週一回通い続けておよそ1年余り。
先日チビが水泳資格のディプロマAを取得しました。

自分はベルリンにいたため、お祭りと化す資格試験(ファミリーがこぞって応援・お祝いにかけつけこれまでの健闘をねぎらいあう)に参加できなくて涙をのんだのですが・・・

気を取り直して先日はディプロマBのレッスン初日。
「泳ぐ」方法について教わっていたこれまでとは違って、「様々なシチュエーションで生き延びる」要素が顕著となるようで。
入水方法や潜る時間、泳ぎ方に様々なバリエーションが出てきます。
馴染みのなかった練習光景にいちいち驚きつつ、いろいろすごいなと思ったところを書いてみようと思います。

海抜ゼロの国オランダで、取得必須の水泳資格(ディプロマ)

都心か田舎かには関係なく、運河や川、水路がいたるところにあるオランダ。
川のほとりには緑が広がり、鴨や白鳥が戯れていてのどかなのですが、そういったところに柵は全くありません。
自転車でも徒歩でも「これバランスを崩すと落ちるな・・・」と思えるところが随所に。

そんな国オランダで「泳げる」というのは必須の資格。
子供においては

「水泳ディプロマを持っていない子供は、プールや海などで必ず浮具(アームリングや腰に巻くスイミングヘルパー)を着用しなければいけない」

というルールがあります。

国の規格で基準が決められているディプロマ、レベルがABCとあります。
どのレベルも着衣(長袖、長ズボン、靴、Cの場合はジャケットも)、水着のみ、と両方でのテストがあります。

Aレベルでは着衣で12.5m、水着で50m
Bレベルでは着衣で25m、水着では75m、
Cレベルでは着衣で50m、水着で100m。

背泳ぎと平泳ぎそれぞれこれらの距離を泳ぐ他に
着衣のまま15秒間の立ち泳ぎ、6m潜ったまま泳ぐ、水着だとバタ足のみでの立ち泳ぎ30秒、クロール10mなどの様々なテスト項目があり(Bの場合は17項目!)、試験は2時間以上におよぶハードさです。

ディプロマAを取得する = すいすい泳げるようになっているレベル、とのことなので・・・
ディプロマAを取得するまで通常1年はかかります。
その後のBやCの取得は比較的早いと聞いています。

全員が取得必須なのでスイミングスクールを併設した市民プールは街にいくつもあるのですが、レッスンの申し込みはいつも混んでいて、申し込んでから半年や1年以上待つのは珍しくありません。
特に年齢の指定はないようですが通っているのは小学生が大半、ディプロマAレッスンの推奨年齢は4〜5歳、と小さいころから通う子が多いようです。

着衣でドボン。ディプロマBのレッスンは「落ちる」ところから。

チビの通うスイミングプールは年中暖房が効いています。
水温はひやっとするほどではないのですが温水とはいえない感じ。滑り台などのある娯楽要素の強いプールと、ディプロマ試験、練習に使う競技用プールがあるのですが、競技用のほうが少し水温が低いです。
見学している方は暑いのですが・・・一度水につかって上がると結構寒く、ブルブル震えている子供もいます。

深さが3.5mとかなりある競技用プールでのディプロマBのレッスン初日。
時間帯が変わると共に、先生もメンバーも一新しての一日目。
さてどんな感じなのかと思ったら・・・

まずは水面から60cmくらいはあるプールのへりに後ろ向きに立ち、
まっすぐの姿勢のまま背中からドボン。落ちてそのまま背泳、というスタート。

水泳用の着衣での飛び込みですが、事前のシャワーや準備体操なんてありません。
靴を忘れた、などで外からそのままの靴の子もいたりします。(洗っているのかは不明)

子供たちは列になり、先生の号令に合わせて次々と水面に落ちていくのですが・・・
Aでの練習である程度慣れているのか怖がる子供はほぼいない様子。楽しそうです。

2-3回繰り返した後はプール中央の横まで移動。
そこには空気の入ったフローティング板が何枚かつながった細い島が。
子供たちはそのぐらぐら揺れる浮き板を走って渡り、不安定な姿勢のまま飛び込んでクロールで岸まで泳ぎます。

一足ごとにバランスが崩れて揺れる島を走り抜けて飛び込む(というか水に落ちる)様子はなかなかスリリングなようで・・・わくわくした表情で子供たちは自分の番を待っています。

しばらく着衣で泳いだ後は、服をぬいで水着だけになり、
飛び込んだまましばらく進み、水中にある輪っかをくぐって出てくる練習や、
1つの浮き棒を2人で使いながら背泳で一緒に泳ぐ練習、
飛び込み台から飛び込んで泳ぐ練習などをこなします。

飛び込みのスタイルは自由なようで。
ジャンプしてポーズを決める子、
頭から1回転してダイナミックに飛び込む子、
横向きにくるっとひねって飛び込む子・・・

そろそろみんな疲れが見える頃・・・のはずなのですが、嬉々と泳いでは戻ってきて我先にと並びます。
やっぱり楽しそうです。

全ての子供に必須・・・ そのために提供されている「泳げるようになる」環境

Bの練習に参加している子達はほぼみんなレッスンが楽しくて仕方ない様子。
でも通い始めて間もない頃は「行きたくない」と駄々をこねたり、時には苦手な先生がいたり・・・
慣れてきてからも学校で疲れて泳ぐ気分ではなかったり。
プールサイドでナーバスになって泣いている子も見かけます。

そういった時には先生は声こそかけますが強制はしません。
練習する子たちを横目にみながら、プールの端っこでちゃぷちゃぷ足をつけていたり・・・そうしているうちに一緒に混ざって泳ぎだしたりします。
子供に水に対する恐怖心、苦手心を植え付けることが何よりもよくないという考えなのか、急かされたり練習を強制されることはありません。

様々な浮具を使いつつ、プールの中でも場所を変えたり、遊びを入れたりと先生方はいろいろな趣向をこらしつつ。
様々な年齢の子供たちはそれぞれのペースで泳ぎを身につけていきます。

プールには目が不自由な子、ダウン症とみられる子、など特別な支援が必要な子供も来ています。
一般レッスンとは別に先生が1対1で指導したりしています。
「みんなが泳げるようになる」ための環境をきちんと整えることが義務付けられている印象です。

ちなみに価格ですがうちの場合はA、Bのディプロマをセットで取得する定額コースで800ユーロほど。
週1回1時間、おそらく1年半〜2年分の金額なので高いとは思わないのですが、費用の捻出が厳しい家庭にはファンドなどによる様々な支援があります。
地域によってはボランティアによって運営される無料の水泳教室などもあるようです。

「市民プール」は社会インフラ? 市政によって練られている「プール政策」

市民プールは市内にいくつもあり、レッスン時間外のフリースイミングの利用料が比較的廉価なため(レッスンで通っている子は無料)、暇な時の娯楽としても大活躍しているのですが・・・

大人の健康管理にも役立ち、かなりの数のプロフェッショナルの雇用を生み出す・・・と経済効果的にも市民の健康にも影響すると思われる市民プール。
でもプールのように整備運営が大変な施設をいくつも保持するというのはなかなか地方や国としては大変なようにも思います。
そんなふうに思う中で、調べているうちに、いくつか面白い資料と出会いました。
地方自治体が出している「プールに関する政策レポート(?日本語訳が怪しくてすみません)」です。

例:“Beleidskader zwemmen 2015-2025 (2015)” ロッテルダムのレポート

上記例はロッテルダムのものですが他の都市でも似たデータがあるようです。

  • – 街の年齢別居住者の推移レポート、
  • – プールの年齢別利用者数の推移、
  • – 街のプール施設の位置と各プールがカバーしている範囲のマップ
  • – 各プール施設の特徴(大きさ、利用者数、暖房状況や滑り台、ジャグジーの有無など)
  • – 地域ごとのレッスンの待機者数


などがまとめられています。
需要と供給、市民の要望、健康面での影響など様々な要素のデータおよび分析と共に、これからの「スイミングプール」に関する課題を各自治体でまとめているようです。

地域の助成金を使っているであろう施設を「無駄なく、よりよく運用する」努力をするのは当たり前かもしれないのですが・・・

どこもデータをきれいに図式化し、課題をまとめてきちんと公開してあるところに、市民の暮らしや問題を共有しつつ一緒に改善、および運用していく姿勢が垣間見えていいなあと思った次第です。

「生きるための力」「自由」を一つ手に入れる。
水泳のディプロマ取得とは子供にとってすごい体験なのかもしれない。

1年以上、雨の日も風の日も週一回のプールに通いつづけ・・・
ディプロマ試験に合格するレベルに達すると、先生から試験への招待をもらいます。
この告知をもらう時も子供達は歓喜するのですが、記念すべきディプロマ取得のテストは家族ともどもが見守るお祭り騒ぎです。
ディプロマAを取得したチビは翌日喜び勇んで証書を学校に持っていっていました。
大げさかなあとも思ったのですが、この「水泳のディプロマ」というのはよくよく考えると子供にとっては初めての国から認められた資格。

ディプロマAを習得した子供はアームリング、フローティングベストから開放され、
プールや海で警備員や係員に「ディプロマ持ってる?」と聞かれた時に胸を張って「持ってるよ!」と言えるのです。

プールに通って着衣で練習するうちに。
子供たちは泳ぎを習うことが単なるスポーツや娯楽でないことを認識しています。
早く泳ぐことでも美しく泳ぐことでもなく、いざという時に生き延びることができるように。

命に関わる重要なスキルを身に付けたことを認識すると共に「証書・資格」をもらう。
そして1つのルールから開放されて自由を得る。
これほどルールづけや努力する理由に完全に筋が通っている中で、能力を高めて自信を得るという機会はなかなかないのではと思うのです。


ディプロマ取得が一大イベントとなり、皆で祝福しあうのも頷けます。

・・・・まあ自分は見に行けなかったのですけどね・・・

数カ月後?のディプロマBの試験には、何がなんでも参加して応援して祝おうと思うのでありました。

いろいろな面でよくできているように見える「水泳ディプロマ」と市民プール。
「オランダと水」に関する話は他にも色々気になるところがあるのですが・・・
きりがないので今回はこのへんで。

2019/Jul/07
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