何事もない日曜日:アムステルダムのトラム(路面電車)にて2019/Mar/18

古い知人が日本から来ている、というので昨日は1人でアムステルダムへ。
日曜の朝8時半、国立美術館やゴッホ美術館が隣接するエリアへトラムで向かっておりました。

アムステルダム駅周辺とこの線のトラムはいつもごった返しているのだけれど、日曜の朝早めということで珍しくのんびりとしたムード。
車内も空いていて前向きの1人席を確保できてご機嫌です。

二つ前の席に座っているのは背が高くて体格のいいアフリカ系の黒人のにーちゃん。
筋肉質な上半身がトラムの座席からだいぶはみ出しています。でっかい。
駅前でしばらくトラムが停止している間に、同じくがたいのいい黒人のにーちゃんが乗り込んで来ます。
座っていた男の友達なのか「ヘイブラザー、お前も今から仕事か?」と通路を挟んだ隣に座ります。
お互いちょっとたどたどしい英語で穏やかに談笑しています。

・・・平和やな・・・

外を眺めているうちに乗って来た人で席がぽつぽつと埋まり始めました。
向かいの席には黒い革ジャン、濡れたような縮れた黒髪、ラテン系の雰囲気のにーちゃん。
黙々と携帯画面をスクロールしています。

ほんといろんな人種の人がいるよなあと思いつつ。
発車を待つ間、また1人長身の男性が乗ってきました。
色褪せたジャケットとヨレヨレのパンツ、長いドレッドは色が抜け、パサパサで乾ききってます。
ホームレスに漂うような悲壮感はないけれど、そのギリギリの年配ヒッピーといった感じ。
車内の切符売りブースの女性に何か訪ねています。

「お願いだ、頼む」的身振り。
ブースの女性はかぶりを振っています。

「悪いけどそれはできないわ。切符が買えないなら降りてちょうだい」

・・・聞こえたわけではないけどそんな雰囲気。

男はくるっと踵を返します。
降りるのか・・・仕方ないよね・・・

・・・と思っていたらポケットからチップカード(オランダのプリペイド定期券的カード)を出してピッとチェックインしました。

切符、持ってるんかーい。

と心の中でツッコむ自分。

その男はふらふらとこちらへやってきて、通路を挟んで斜め前の1人席に座ったのでした。
向かいのにーちゃんが携帯をいじっているのをじっと見ている・・・と思ったら話しかけます。

「君はオランダ人か?いや違うな、フランスか?」みたいな感じ。
前の男がうなずきます。
スペイン系という私の勝手な予測に反してフランス人だったようです。

フランス、と聞いたヒッピー風の男、「シルブプレ」と両手を合わせます。
「テレフォン・・・」ゴニョゴニョとつぶやき「シルブプレ」と懇願。
どうやら電話をちょっと使わせてくれないか、という雰囲気です。

目前の一幕に自分はだいぶ混乱していました。
なぜ出身地を聞く必要があるのか、そして片言のフランス語。
ここでわざわざ電話を借りて使う必要があるのか?
いろいろ予想できません。
この男、ちょっと足取りもおぼつかず、登場した時から怪しさしかない。
とりあえずはこの男が頼んで来たのが自分でなくてよかったと思いつつ。

自分が勝手に混乱している目の前で、フランス人らしき男は「はい」と携帯を手渡したのでした。
ヒッピー風の男は背中を丸めてダイヤル画面をタップ・・・どこかに電話をかけています。

え、貸すの???
普通に貸すの?

・・・心の中で何かに全力でツッコむ自分。

怪しさ満載だよね?
この後どうなるの???

電話はなかなかつながらなく。
呼び出し音がずっとなっていてヒッピー風の男は諦めたようです。
持ち主に携帯を返すけれど、向かいの男は「もう一度試したら?」とリダイヤルしてヒッピー風の男に携帯をまた渡し・・・そして頭を寄せて、2人で画面をみながら何度も電話をかけようとしています。

どうなるのか・・・いや、別にどうってことにはならない・・・?

後ろ髪を引かれながら、ここで自分はトラムを降りました。
なのでその後どうなったのかはわかりません。
・・・本当にわかりません。

自分だったら絶対貸さないな・・・とちょっと考えてみます。
フラフラしていてもケンカで勝てそうな相手ではないし。
勝てそうな相手だったら貸しただろうか?
トラムの車内は出入り口にゆっくりとしか開かない押して開けるタイプの小さいゲートがついていて、携帯を持っていきなり逃げるのはほぼ不可能にみえます。
・・・それでも、貸さないだろうな。

慣れない土地ならなおさら。
できるだけ警戒して暮らす、のは間違っていない・・・
というよりそうするべきだと思っているのです。
自分の子供にもそう言うでしょう。
でも、自分の警戒心や猜疑心がいい意味で無駄になることが多いといいな。
・・・そんなことを考えながら歩いておりました。

治安とか、人種とか、正しいとか正しくないとか。
当たり前なんだろうけど何事も一言では括れないもので。
自分の見えてる、理解できたように思える世界はどれだけミクロに小さいんだろう、ということを改めて実感しつつ。

とりあえず、事件もオチもない中で。
自分は勝手に混乱しつつ、平和やなとつぶやいてた・・・そんな日曜日なのでした。

2019/Mar/18
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