BOB POPCORN

「普通」の定義とは? 子供小説 “BOB Popcorn” がオランダらしくて面白い。2019/Dec/16

街の図書館で出会った子供小説のインパクトが強すぎて、ずっと気になっていたのですが・・・
本屋で見つけたので購入してしまいました。

カウボーイハットのどや顔がまぶしい・・・
5-9歳向けの子供小説、BOB Popcorn です。

内容は
 
「ポップコーンの突然変異ボブと、ポップコーンが好きすぎる少女の友情の物語」

おばけや妖怪との友情物語、と言うと珍しくないかもしれないファンタジーなのですが・・・
ちょっとシュールなイラストと、物語の背景がなんともモダンでオランダらしく。

・・・オランダらしいというか・・・オランダだからこそなのかも・・・?

そんな気もしてきたので、ご紹介したいと思います。

ポップコーンになれなかったコーン粒の突然変異、ボブ

このカウボーイハットをかぶったどや顔のキャラクター。
一見何なのかわからないのですが・・・タイトルのとおり、ポップコーン・・・正確に言えばポップコーンになる前のコーン粒。

農場で怪しい薬をこっそり撒く男・・・
アメリカの農場で一夜で巨大に育ったトウモロコシ。
その一部がポップコーンとしてオランダに輸出されるというのがお話の冒頭。


・・・これ・・・大丈夫・・・?

アメリカに喧嘩を売ってる…ようにも見えかねない挑戦的な出だしで、飄々と物語は始まるのです。

ポップコーンが好きすぎる少女エリスとその家族

そしてポップコーンのことばかり考えている主人公 Ellis(エリス) 。
一緒に暮すのはお父さんとその恋人男性。
ポップコーンが大好きなこと以外は普通の女の子、です。

お父さんと、その恋人男性との3人家族・・・・?
オランダに来てから2年以上が経ち、だいぶ慣れてはきたのですが・・・
オランダのジェンダーや家族の形が様々なのにはいまだ驚かされることがあります。

オランダで見る様々なジェンダーと家族の形

チビの最初の小学校(外国から来た子供がローカル校に編入する前に通う学校)にはトランスジェンダーの先生がいました。
女性ですが刈り上げた髪型、パンク少年めいたファッションで、鼻にピアス、腕にはタトゥー。
一見いかつくてちょっと怖いのですが・・・週末にはイベントなどでピエロの副業をこなす面白い先生です。
女性パートナーと一緒に暮らしているとのことでした。

カンフー教室のクラスメートはお母さんが2人、という家庭。

相方の通っていたコワーキングスペースは男性パートナー2人で経営しています。

両親の離婚後、お父さんの家とお母さんの家を曜日によって行き来しつつ、学校にきているクラスメートもいます。

学校の書類などの記入欄は「親、および保護者」ということで複数の名称や住所を書くようになっていて、「父」「母」がいて同じ家に住んでいるのが当たり前という概念はありません。

これまでの人生の大半を日本で過ごしている自分。
トランスジェンダー、性的マイノリティーと呼ばれる人が日常に普通にいる風景に慣れていなかったので、いまだに少し戸惑うのですが・・・

子どもは今まで見たことがないタイプの人に一瞬戸惑うものの、すぐに「そういう人」として受け入れるようです。
そして「珍しいタイプ」に戸惑ったことを隠しません。

チビが新しい学校に行き始めた時、学校以外のアクティビティに参加した時など幾度となくジロジロと顔を見られたことがありました。
目を引っ張って細目にするジェスチャーをしてきた子もいます。
この辺では東洋人の子供はまだ珍しいのと…自分似でチビが典型的東洋人顔、というのも理由かもしれませんが。

でも

「お前、見たことない感じだけど、一体何なん?」

そんな素直すぎる反応はちょくちょくあれど。
その後しつこく人種なり、見た目なりを卑下されたり、意地悪をされたりしたことは幸いにも今のところないようで。
チビ自体も「はじめての場所ではちょっと居心地が悪い」ことに慣れたようで、そんな時にも割と平然としているのは

「最初びっくりされても、すぐに相手が自分という存在に慣れる」

ことを体感しているからのように思います。
意地悪をしてくる子も時にはいます。
でもみんながそう、ということはなく。
仲良くなる子だっているのです。

いろいろなタイプの人間がいるほうが当たり前。

そんな認識は「多様性」を重んじることを国として名言している(少なくとも王室は公言している)オランダでは特に顕著で。
教育や社会システムの中に、その意識を浸透させる努力や地盤があることは間違いないように思います。

いろいろな人がいることを教科書で教えるよりも、絵本、子供の小説にいろいろな人が普通にいることがさらっと描かれていること。

珍しいと思うことではないのかもしれませんが、こういう点にいちいちなるほどなあと感心してしまうのでした。

スーパーヒーロー、スーパーヒロインはいないけれど。

電子レンジで加熱してもポップコーンにならない一粒のコーン粒。
小さな粒はそのうちに大きくなって手足がついて・・・そして顔が・・・
なんだかホラーめきつつも生まれた謎の生き物、それがボブです。

大食いでやたらとキレる・・・なんとも可愛げのないボブ。
一般的には珍しいタイプといえるパパとパパ。
ポップコーンの話を除いては、ごくごく普通に日常生活を送るエリス。

ちょっと変わった登場人物達のちょっと変わった日常の物語には、派手でドラマチックな展開はありません。
それでも、ダイバーシティー慣れしていない日本人から見た衝撃、という点をのぞいて読んでも、なんだか可笑しくて、少し幸せな気持ちになる、そんなこども小説です。

ちなみに・・・この本のWebサイトがあるのですがなかなかの凝りよう。

https://www.bobpopcorn.nl

ポップコーンに関するコンテンツが色々。
SCRATCHで作られたミニゲームなども楽しめます。

日本語訳も出ると面白いのにと思いつつ。
来年には次作も出版されるそうなので楽しみに待ちたいと思います。

ゴソゴソしていたところをネズミと間違われ激怒するボブ。
「俺はネズミ(Muis)じゃない!コーン(Mais)だ!!」
キレるポイントがよくわからない。
2019/Dec/16
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