地域のオランダ語講座が色々素晴らしくてぐうの音もでない、という話2018/Dec/13

オランダに来てもうすぐで1年半。
子供がどんどんオランダ語とこちらの環境に馴染んでいくのに親が言葉を全くわからないのはさすがにまずい・・・と9月からオランダ語講座に通い始めた自分。
家で勉強する時間をキープするのは無理!と潔く諦めているので「せめて授業は休まない」と決めて3ヶ月・・・
相変わらず聞き取りは全くといっていいほどわかりませんが、読むのであれば僅かずつながら意味のわかるものが増えてきた気がします。
自分で自分を褒め・・・そうになったけどなんのことはない、学べる環境が素晴らしくよくできていると思うので、書き留めておこうと思います。

ほぼ負担ゼロ。「やる気さえあれば学べる」環境は大人にも。

自分の通っているのは専門の語学学校ではなく、市と市民が運営しているオランダ語レッスンです。
街の中心にあるソーシャルセンター内ですが、電子黒板(これは実際使っているのをみたことはないですが)を搭載した教室があり、毎日いくつかの授業が開催されています。
こじんまりとしていますがコーヒーやお茶を淹れることもでき快適です。
費用は年間10ユーロ。これでいくつでも受講が可能です。
年間10ユーロ・・・なぜ10ユーロなのかわからないのですが実質無料みたいな金額。
オランダの図書館は有料なのですが(うちの地域は年間43ユーロ)、オランダ語をどこかの学校で学んでいる場合は利用料が無料になるため無料どころかお得とも言えます。
(うちの地域だけかもしれませんが・・・これはホームページなどには掲載されていない謎のシステムです。オランダに住んでると「大々的に公言されない、その地域やオランダに詳しくならないとわからないお金の情報」にちょくちょく遭遇します。)

教科書を必ず買う必要もありません。これはチビの小学校も同じ。
おすすめのテキストを推奨はされますが、授業で使う教科書は必要な部分をコピーして配布してくれます。
生徒の反応や理解度を見ながら柔軟に教材をアレンジ、都度必要な箇所だけを利用、時には重点的に理解するために複数のテキストから同様のテーマの箇所を集めて使うこともあります。

頼もしすぎる・・・ベテランのシニアボランティア

この実質無料といえる講座がいったいどうやって運営されているのか、ですが先生方は全員ボランティア。
メインの先生とサポートスタッフ含めほぼ60代、70代のご年配の方々です。
「ボランティア」しかも「ご年配」というと失礼ながら「質を期待してはいけないのでは・・・?」と思うかもしれませんが全く逆でした。
メインの先生はどの方もそれこそ何十年、ずっと「教える」ことを専門にしてきた大ベテランです。

「教える楽しさ」
「生徒ができるようになっていくことを実感するやりがい」
「コミュニケーション、地域貢献の喜び」

モチベーションが純粋だからこそできることだからなのか・・・
先生方とサポートスタッフからは人徳と言えばいいのでしょうか「”いい人”感」と教える自信がみなぎっています。
様々な国籍の生徒を前に英語を交えつつ、

  • 「毎回繰り返して身につける基本の音読」
  • 「読み方、文法」
  • 「以前習った内容の復習」
  • 「オランダの風習や歴史、文化」
  • 「小グループに分かれての読む練習」


これらを組み合わせ、軽快なテンポで授業を行います。
コーヒー、お茶とお菓子が用意された休憩時間を間に挟み、2時間弱の授業はいつもあっという間。
オランダ語は難解で全く馴染みがなく、とっつきにくいのですがこの授業は全く苦になりません。
自分は教育について全く詳しくないですが、学習を苦にならないものにする工夫が見事だと思ったので気になるポイントを書き出してみました。

  • 説明や質問、生徒を当てるテンポが良い
  • 同じことを長く続けない(15分くらいで取り組むことを変える)
  • 難しすぎる質問をしない
  • 基本的なこと、以前学習したことを合間合間に繰り返す、思い出させる構成
  • ちょっとしたことポイントを見逃さず、生徒の発音や回答を本当によく褒めてくれる
  • 生徒の答え間違いや、覚えにくいことが出てくる度に「いずれわかるようになるから大丈夫」の念押し

特に

「なにかとよく褒められる」
「いずれわかるから大丈夫」

この効果はつい理由をつけて怠惰になりがちな自分的には大きいと感じています。
これらの積み重ねで
「ああなんかやっぱりよくわかんないし、今更語学とか無理っしょコレ」
という負の気持ちより
「(ものすごくちょっとずつだけど)前よりわかるようになってる!」
という喜びを強く感じるようになっている気がします。

前にチビの小学校について書いた話で「なんだかよくわからないけど大丈夫」という安心感について書いたのですが同じことなのかもしれません。
自分のできる範囲、で大丈夫という安心感。
「あなたが今日も授業に来てくれて嬉しい」とは言ってくれるのですが
「授業に毎回来たほうがいい」「家で復習したほうがいい」とは言いません。

学校、そして学習している時の居心地の良さ。
これは先生方の人徳によるところもあるのでしょうが
オランダの「初等教育の技術」の一つなのは間違いないような気がしています。

市民が支える、ソーシャルセンターはなぜ成り立つのか

ありがたすぎるとも言えるこのオランダ語講座は誰でも登録&受講が可能。
登録はざっくりと連絡先を記入するだけ、10ユーロの年間費の支払いすらも「ああ、担当者いないから次回ね。いついるかわからないから次回聞いてみて」とゆるいです。
このソーシャルセンター自体はホームレスや孤独な人、困っている人々が立ち寄れる、無料でコーヒーやお茶を飲めるカフェ、相談所&シェルター的役割を担っている施設なのですが、かといって生活に困った人だけを受け入れているというわけでもなく「誰でもウェルカム」です。

オランダ語講座の生徒さんは移民の方、仕事でこちらにきている人、家族の都合で来ている人と様々で色々な国の人が集っています。
集中してオランダ語を習得してさっさと働くわよ!と意気込む駐在員の家族さんなどは、費用が高くても効率良く短期で学べる語学専門の学校に行っているようで少数なようです。

無料だからといって多くの人が詰めかけるのでもなく、難民としてオランダにやってきた人やホームレス、生活に困っている人が多いから殺伐とした感じがするかといえばそんなことはありません。
カフェでは訪れた人をごく自然に受け入れて、みんな思い思いに過ごしています。
立ち寄るときっと毎日いると思われるおしゃべり好きで世話好きなおばあちゃんがコーヒーを勧めてくれます。
なごやかな雰囲気を作り出しているのはスタッフと、参加している市民・・・多くはご年配の方々です。

先生方が完全にボランティアで毎週授業をしているというのを聞いた時に、自分はだいぶびっくりしたので「どうして?」と尋ねてしまいました。

「何十年も教師をやっていて、教えるのが楽しいからよ。
あと、社会に役立つことをしたいというか・・・それにいろんな人に会えるでしょ。」

その先生はそれこそ「どうしてそんな当たり前のことを聞くの?」といった顔で答えたのでした。

そういった社会的な活動に参加、協力する人が沢山いるのは本当に素晴らしいとは思います。
素晴らし過ぎる、美し過ぎるようにすら感じます。
美しい動機とその継続をつい疑ってしまうのは「ボランティア心を搾取するビジネス」と「ボランティア参加をステイタスツールとして利用する」風景を見慣れているからかもしれません。
・・・いや、自分の心が汚れている・・・だけですかね。すみません。。。

市が運営するソーシャルセンターにはボランティアではないスタッフももちろんいます。
お金をもらって働く人もいれば、無償で毎週時間どおりにきて数時間働く人、好きな時間に手伝いに来る人がいれば、お茶を飲んで話をするだけの人も・・・とにかくいろいろな人がいます。
「お金をもらっている」「もらっていない」そこをみんなが突っ込み出すときっと何も回らなくなるでしょう。

「人は人、自分は自分」。他人と比較することに意味を見出さない風土。
できる範囲でいい、自分のモチベーションによって動くという大前提。
公によって提供される快適な活動環境とサポート。

いろいろな環境と背景が「理想的すぎる」ようにも見える活動を支えているように見えます。
そしてその公共のサポートと市民の善意で構成された空間は穏やかで平和です。
「何か自分にできることはないか」「小さなことでも手伝えないか」
ソーシャルセンターに出入りする人が細々したことを手伝っていたり、
生徒がお菓子やホワイトボードのペンを差し入れするようになったり。

「もらえるものはもらわなければ損」「公共のものを使わなければ損」ではなく。
恵まれた環境への恩恵を何かで返す。小さなことでよいので。あなたが思いつきさえすれば。
そんなゆるくも向上的な空気が小さな施設の中にあり、それはきっとオランダの治安の良さや暮らしやすさを説明する1つのロールモデルであり、その根本をなすのは「教育」によるマインドの生成なような気がする・・・とうっすら考えた次第です。

・・・なんだかすごく長くなりましたが・・・
先生がさらっと付け加えていた一言がとても心に響いたのでありました。

「誰だって困ることはあるはずよ。
仕事を失ったり、孤独になったり。
私だって、あなただって、絶対にそうならないなんて言えないでしょ」

小学校でもそうですが大型タッチパネルの電子黒板は学校備品の定番のようです。
先日の授業はサプライズのクリスマス会でした。
生徒全員へのプレゼントまで用意され、オランダのクリスマスの祝い方などの話をしつつ。
2018/Dec/13
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