「子どものためのデジタルファクトリー」でオランダのSTEAM教育への本気度を垣間見る2019/Sep/14
先週、オランダはアムステルダムにて。
図書館内に「子どものために開かれたデジタル製作の場」が常設されていること、そしてその7番目のプロジェクト施設が新しくオープンすると聞いたので見に行ってきました。
プロジェクトの名前は maakplaats 021。
日本語で言うと「つくる場」。
21世紀型の教育の一つとして知られているSTEAM教育の実践を掲げています。
「STEAM教育」という言葉を聞く時に感じる違和感
「STEAM教育」という言葉を聞く度に、だいたいにおいて疑問に思うことがあるのですが・・・
以下、Wikiからの引用です。
STEAM教育(スティームきょういく)とは、
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:STEAM教育
Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習する「STEM教育(ステムきょういく)」に、 Art(芸術)を加えて提唱された教育手法である。
加速し続けるテクノロジーの進化の中で
「Science」「Technology」「Engineering」「Math」の理系的領域により力を入れる、というのはわかります。
そして、その「機械、AIに得意な分野」を習得・活用するだけではなく、いかに「想像的・創造的なアプローチ」ができるかどうか。
その根幹となる「ヒューマニティーから生まれるアイデア、問題解決のアプローチ」的な面を「Art」としてSTEMに融合させたものがSTEAM教育、というふうに自分は理解しています。
ただSTEAM教育についての話題を見ていると・・・
理系的部分、いわゆるSTEMの部分ばかりが取りざたされている感があり。
デザイン的思考、哲学や心理学、歴史学などヒューマニティーに関連する部分に全く触れられることなく「STEAM教育」が謳われることがあまりに多いのではないか・・・? ともやもやしていた次第です。
「STEAM教育」=「プログラミング教育」・・・?
そんなイメージすら広まりつつあるように見える中で。
21世紀型の教育、と呼ばれるSTEAM教育とは一体なんなのか・・・?
実態像が沸かないもやもや感を持ちつつも・・・
アムステルダム、Javaplein にある図書館内の一室に新設される maakplaats 021 のオープニングデーを訪れた自分。
そこに広がっていたのは、なんとも熱気と活気に満ちた「見たことのない光景」でした。
子どものための「デジタルファクトリー」maakplaats 021
図書館のエントランスをくぐってすぐ。
オープンスペースの真ん中に長机がおかれ、子どもたちが周りをとり囲んでいました。
机には色とりどりのペンと画用紙が散乱し、電池やケーブルと共にさまざまなジャンク?らしきものが見え隠れしています。
長机の脇の床には大きな模造紙と木の柵が。
そして紙コップの体、カラーペンの足、紙くずやジャンクで顔らしきものが彩られた・・・
なんともヘンテコな可愛らしいおもちゃがいます。
顔?の前についているのはアイスバーの棒。スイッチをいれるとこのプロペラが回り、この奇妙なおもちゃはトテトテとぎこちなく動きます。
そして足のカラーペンによってその軌跡が紙の上に描かれていきます。
ロボットというにはあまりに弱々しく、絶妙に愛嬌のあるたたずまいについつい見入ってしまったのですが・・・
子どもたちは思い思いに自分達のおもちゃを作って動かしています。
オープンスペースの奥が新しいmaakplaats 021の部屋。
図書館スペースとの区切り部分の壁はガラス張り、部屋は路面に面していてそちらもガラス張り。
自然採光がふんだんに入り、公開された雰囲気の「製作ラボ」です。
3Dプリンター、シールカッター、レーザーカッター・・・
あまり普段目にすることのない機械が窓際に並んでいます。
自分の書いた絵をスキャンしてシールを作ったり、
自分の横顔のシルエットを木の板でくり抜いたオブジェを作ったり。
電子工作の部品を電子基板にはんだづけしてアクセサリーを作っている子もいます。
プログラミング工作キット的なものを使っておもちゃを作っている子、
ブラウザ上のピアノに自作の粘土製の鍵盤をつなげて音楽を奏でる子・・・
オープニングデーのワークショップ、ということでおそらく普段以上に盛りだくさんの内容?だったような気もするのですが・・・
部屋の中には子どもたちがひしめきあい、チューター達に質問しながら色々な制作を試していました。
贅沢すぎる環境はクリエイティビティーを阻害する?
へんてこロボットを作っていたオープンスペース同様、ラボスペースの中は好奇心による熱気のエネルギーが満ちていて。
嬉々として動き回るこどもたちのエネルギーも圧巻だったのですが、チューター達のサポート感が絶妙で。
「とにかく明るくポジティブな空気」を大人も子どもも一緒に楽しんでいる感があったのは特筆すべきな気がします。
ワークショップは無料。
様々なキットや文房具など、色とりどりの素材をふんだんに使える中で、明るいノリのチューター達と共に手作業ではできない驚きの工作が機械で実現できたり、動く何かを作ることができる・・・
・・・贅沢すぎやしないか・・・?という思いがよぎります。
これは・・・想像力やクリエイティビティーを必要としない、単純に娯楽として楽しんで満足してしまう結果にはならないのだろうか、とも。
でもこの現場に来てみると、自分の中で明確に変わった意識があることにも気づきます。
それは
「たぶん、なんでも、作ることができる」
そんな意識の芽生えです。
「自分には携帯電話を作ることなんて絶対にできないし、作るなんていう考えがナンセンス。」
テクノロジー、工業技術が発達し、便利で完成されたサービスやプロダクトで溢れている中で、いつのまにか「既成のサービス、製品を使いこなすだけで精一杯」そんな意識にがっちりとらわれていることに気付かされるのです。
この子どもたちは粘土や絵の具で遊ぶかのように「何かを作る」手法に遊びながら触れていきます。
「使い手」となる以前に「創り手」である環境に身をおいているのです。
いい年をした自分ですら目から鱗だった現場にて、柔軟なこどもたちがどんな影響を受けて大きくなるのか・・・デジタルやテクノロジーを至上とは思いたくないアナログなタイプの自分にとっても、その将来はなんとも楽しみなように思えるのです。
こどものために無料で開かれたオープンラボ、サポートする市と企業
この衝撃的に贅沢な maakplaats 021、ワークショップへの子どもたちの参加は無料です。
年齢制限、人数制限はあるものの、他に条件はありません。
ワークショップがある日以外の放課後は近隣のアフタースクールの子どもたち、日中は近隣の学校が交代で利用しているとのことです。
運営を支援しているのは主にアムステルダム市。
21世紀型の教育支援とのことで、費用および「図書館という公共の場との連携」をサポートしているとのこと。
「アートなどの人文的分野と最新テクノロジー」を織り交ぜた「市民的・未来的な視点での問題解決」のリサーチ、企画を専門とする公的企業のWAAG、その他教育機関など、一部の企業も支援をしています。
現在市内に7箇所の maakplaats 021、来年度には11箇所に増やす予定もあるそうで。
ちなみに私の見る限りで10名近く現場にいたチューターの方々・・・ボランティアではなく、プロフェッショナルとしてきちんと賃金の払われるスタッフとのことで、聞いてちょっとほっとしました。
教育への投資…アムステルダムの本気度がうかがえます。
「A」はどこにあるのか?を振り返る
21世紀型教育と言われている STEAM教育。
ここで冒頭のもやもやを再度振り返ってみるのです。
Artにあたる「A」はどこにあるのか、と。
「答えがはっきりしている」理系的面のSTEMに対し、
「ヒューマニティーから生まれるアイデアで、社会的に問題解決する」
なんとも曖昧で、人間ならでは能力とも言える…そんな意味が「Art」のAに込められている中で。
このAの部分を強化させるために必要なことを考えても、やはり明確な答えはないのかもしれません。
あえて言うなら人間力の育成、そんな感じでしょうか。
人との関わりと、膨大な知識や歴史とのつながり
そういう意味で、様々な知識のリソースともいえる図書館内にあのなんとも明るく活気に満ちた空間が構成されていることは、理にかなっている気がしてならないのです。
そして日常の生活や、普段の教育環境で育まれるこどもたちそれぞれのヒューマニティーを信じて任せている、そんな余裕も感じた気がします。
結局、STEAM教育とはなんなのか?はっきりと表現できないままではあるものの。
子どもたちが猛烈に楽しそうだったことも含め、なるほど楽しみなプロジェクトだなあと感心しつつ。
アムステルダムはちょっと遠いので・・・同様のプロジェクトが各地に増えると面白いなあと。
自分に似たのか今のところSTEMな領域にあまり興味がなさそう・・・?
なチビを横目に思うのでありました。