入試、テストでは決まらない? 複雑なオランダの教育制度をフローチャートで見てみたら2019/Oct/01
オランダの小学校に子供が通いだして早2年余り。
学校、進学関連の話をしていると頻繁に耳にするようになるのが VWO、HAVO、VMBO などの中等教育の種類を表す単語です。
各学校が多種多様な教育方針を持ち、小学校選びすら一筋縄ではいかないように見える中・・・
中等教育以降の進路についてはまず「教育タイプ」が分かれていきます。
さらに中学校以降、高等教育の段階になると、WO、HBO、MBO・・・ とこれまた 「?」 な高等教育のタイプを表す単語が並びます。
だめだ、全然わからないしイメージが沸かない・・・ と頭を抱えていたところ、オランダ語の先生が参考になるWebサイトを教えてくれました。
職業訓練に関するサイトなのですが、この中でオランダの教育制度についてかなりわかりやすくまとめられています。
ここにある全容が一望できるチャートが素晴らしかったので日本語版を作成してみました。
まだまだ勉強途中ではありますが・・・オランダの教育制度についてざっくりご紹介してみようと思います。
中学校以降の教育タイプが多岐に分かれるオランダ
オランダの教育システムのフローチャート。
一番下が小学校 (初等教育)です。
まず中学校。オランダの中等教育は3つの教育タイプに分類されます。
大学進学準備の中等教育 VWO、
一般的な中等教育 HAVO
職業訓練準備の中等教育 VMBO。
表内では左側にあるほど学術的です。
アルファベットの詳細については Wikiの「オランダの教育」項目 をご参照ください。
これらは学校ごとに分類されているのではなく、1つの学校が複数の教育タイプをカバーした形で編成されていることが多いようです。
その場合、転校しないで同学校内で教育タイプを変更することが可能になります。
小学校の最終学年時(Group 8 : 日本でいう6年生)に、これまでの度重なる面談とテスト結果、最終テスト(CITO)によって子供たちはどの教育タイプの中学校に進学するかが決まります。
実際はGroup 7の時点で進学する教育タイプについてはほぼ決まっており、より具体的な学校の選択のための情報収集や学校訪問を行っているようです。
IQが高く、成績が良く、学業への意欲が高い生徒、は大学進学準備コースにあたる VWO へ。
一般的には6年間在籍し、高成績、高意欲をキープした生徒は 「大学(WO)」 を経てそして 「大学院」「博士」 へと進学していきます。
大学に進学するのは全体の10%とのことなので・・・なかなか狭き門ではあります。
大学進学準備コースと職業訓練準備コースの中間、一般的な中等教育といえるのが HAVO。
職業訓練準備コースがVMBO、表の右側です。
VMBOの中でも4つのプログラムに分かれ、職業訓練の高等教育に進む場合でも様々な段階、パターンがあります。
中学校卒業時から得られる様々なディプロマ、
国家資格フレームワークを知るとイメージしやすい。
この表に小さく表記されてる数値はEQF Level。
EQF とは欧州で定められた国家資格フレームワーク。
「国家資格フレームワーク」とは、外国でも通用するよう標準化された、国家による公式な学位・資格レベル認定制度のこと。
欧州(EQF)の場合は8段階に分けられます。
(ただしアメリカと日本では該当する基準はないようです。)
この表を見れば、どの教育タイプの段階でのディプロマがどのレベルの国家資格にあたるのかが一目瞭然です。
参考:EQFの詳しい各レベルの説明についてはこちら
https://ec.europa.eu/ploteus/content/descriptors-page
複雑多岐ではあるけれど。
フレキシブルとも言えるオランダの教育システム。
このフローチャート、教育システム上の分類だけを表しているのですが、既にぞっとする複雑さではあります・・・
それでも行き交う矢印を見ていると、職業訓練コースの中等教育を経ていても、何らかの経路で大学進学は可能なことがわかります。
また、表の左側、学術的難易度の高いほうから右、学術的難易度の低い方への移動は自由にできるようです。
中学校から進路選択というのは厳しい・・・ようにも見えるのですが。
「適正」や「目指す姿」に合わせて早いうちから努力の方向を定めていける、そして努力次第で途中で変更していくことが可能なのはなかなかよく出来ているように思えます。
入試で決めるわけではない・・・?
オランダの進路選択
この複雑な教育システム上の進路、どうやって決めていくのかが気になるところなのですが・・・
中学校選択の場合、普段の成績、評価によって先生の助言を受けながら「無理がなく最適な進路」を本人と家族、学校が一緒になって選択していくこととなります。
小学校では低学年から成績の指標化のための定期テストがあるのですが、このモニターテストについては特別な準備、テスト勉強をしてはいけない、ということになっています。
あくまでも「子供の現状の能力」「学習の把握度」「進歩」を知るためのものだからです。
また、学校では小学校低学年のうちからモニターテストの結果を反映した成績と、その他びっしりと「勉強への意欲」「他の子との協調性」「オープンマインドかどうか」「積極性」など多岐にわたる生活態度的項目をスコア化した成績表をもらいます。
本当なのかまだ実感はできないところではあるのですが、オランダの小学校の先生方は低学年のころから、どの子供がどのくらいの学力を持っていて、どの教育タイプ、方向へ進むのかをかなり正確に把握しているそうで。
最終テストのCITOについては、以前は「入試」的な役割を担っていたようですが「一度のテストによって進路が左右されるのはどうなのか」との批判からその効力が改定され、最終決定力のあるものではなくなったようです。
現在は本人が先生方の判断と異なる進路を希望した時に、より高いレベルに挑戦するチャンスとしての試験、との位置づけになっていると聞きます。
仮に最終テストの結果が悪かったとしても、学校の推薦を経て決めた進路を変更させられるということはないようです。
中学校の選択にしても、その後の進路にしても。
「入試」や「入試対策」について聞く機会がないことを常々不思議に思っていたのですが・・・
中学校の入学に関しては、小学校時に全体的な成長、努力、適正を見ながら学校と共に判断。
中学校以降については各段階の学問を全う、習得した証明となるディプロマを取得していれば該当するレベル内で次の進路を自由に選べる(ただし希望者が多すぎる場合は選抜)。
そんなわけで「入学試験」そのものはあまりクローズアップされないことがわかってきたこの頃です。
受験のために勉強する、ということに慣れすぎた自分から見ると、全くもって斬新に見えて驚いたのですが・・・
よくよく考えてみれば多種多様な職業や分野がある中で、何の分野をどのレベルで習得したかの証明(ディプロマ)が重視され、その蓄積がキャリアのためのカードとなるというのは合理的・・・というよりむしろ当たり前であるべき気もするのです。
ヨーロッパは「学歴社会」と言われていますが、「学歴」と「能力」がかけ離れないよう制度が整備されている前提を踏まえれば「能力社会」というほうがより本質に近いのだろうなと思いつつ。
「学歴社会」「能力社会」といえど・・・全員が同方向を目指さないオランダ
それにしても「学歴社会」「能力社会」というとさぞギスギスしているだろうと思われそうですが・・・
オランダの小学校生活を見ていて驚くのが、「高い学歴」を皆で目指すべきというプレッシャーがまるで見られないことです。
学歴や能力の高低も「多様性の一つ」であり。
収入の高低に結びついていないとはいえないものの、安定した社会保障と労働条件の整備、「多様性を尊重する」国全体としての意識の高さゆえに、収入の低さや学歴の低さが「生きにくさ」に直結してはいません。
義務教育の学費は基本無料、で様々なタイプの学校が存在するオランダ。
それぞれが同方向を目指して競争するのではなく、かなり早い段階から「自分に合った生き方を選択していく」ための多様な選択肢や環境が整えられているように見えるのは、大人になった今でも右往左往している自分から見ると羨ましい限りだと思うのでした。
書きたいことが多すぎて例のごとく長くなったのですが・・・(そして書ききれている気が全くしない・・・)
とにかくはこのフローチャートのおかげでやっと何度聞いても聞き慣れないオランダの教育システムにおけるアルファベットの組み合わせの意味がなんとなくわかってきたような気がします。
まだまだわからないことだらけ、の毎日。
わかりにくいと同様に悩む(?)誰かのお役に立てば幸い、ということで・・・。